抗MRSA薬なんかよろしく(テイコプラニン)

本日の依頼

念のため抗生剤よくいく泌尿器Drから、バンコマイシンかなんかよろしく、と依頼。

まず本当にいるのかな?と思う。泌尿器系の感染で、MRSAやE.faeciumがガチな起炎菌になる菌血症はあまりないからだ。尿培養から出ていたとしても、抗生剤投与の結果残った菌がいるだけ、とかありえる話だ。

MRSAが好きなのは皮膚からの感染、そこから波及した菌血症や骨髄炎だ。また、E.faeciumは常在菌でもあるので、出ているからといって起炎菌ではないことも多い。

今回は尿からE.faeciumが出ていたから、抗MRSA薬投与だったわけだが、いるかなぁ?、と思いながらも、医師の意志は強く、投与することになった。ついでにレボフロキサシンも投与するとのこと。大腸菌のカバーとかちょっと大丈夫かなぁ、なメニューです。

抗MRSA薬は何を使う?

私は常にバンコマイシンを中心に抗MRSA薬を考えますが、この記事を書いている2021年3月現在、小林化工さんの薬混入事件により、バンコマイシンが非常に手に入りにくくなっております。一応ストックは持っているのですが、なんとなく抗菌薬のカバーを広げておくだけの理由では貴重なバンコマイシンをあまり使いたくはありません。

というわけで、今一番在庫が問題なくて、コストもリネゾリドほどかからないテイコプラニンを推奨しました。

テイコプラニンは投与法がちょっとめんどくさい

テイコプラニンという薬は、普通の薬と違い最初の3日間ローディングといって、多い量をいきます。これがめんどくさくて、なじみのない医師は大体間違えます。

例① 腎機能正常の60kgの人で
1日目 10時 400mg 22時 400mg
2日目 10時 400mg 22時 400mg
3日目 10時 400mg
4日目 血中濃度測定後 10時 400mg
その後は1日1回400mg

例② 50kgの人で Ccr30ml/minくらいだと
1日目 10時 300mg 22時 300mg
2日目 10時 300mg 22時 300mg
3日目 10時 300mg
4日目 血中濃度測定
5日目 10時 200~300㎎ 以後隔日で200~300㎎

例③ 40kgの透析患者さんで
1日目 16時 300mg 2日目 6時 300mg
2日目 18時 300mg 3日目 6時 300mg
3日目 18時 300mg
4日目 血中濃度測定
5日目以降 透析日に透析後200㎎

※いずれも血中濃度が出たら調節。

というような投与法で、体重が低いと、もっと1回量が減ったり、腎機能が悪いと、4日目以降が隔日になったり、複雑です。詳細は化学療法学会 TDMガイドラインを見てみましょう。

テイコプラニンの血中濃度はトラフではなくても、4日目にとる

バンコマイシンは3日目の投与直前を狙って、血中濃度を測定しますが、TEIC は、『半減期が非常に長く,定常状態到達に長時間を要するため実地臨床では定常状態を待つことなく,4 日目の TDM にて評価し,4 日目のトラフ値をもって目標血中濃度を設定する』、と化学療法学会TDMガイドラインにはかかれています。

また、3日目の投与直前に採血して、シュミレーションするのもありです。(そこから、少し上がった濃度が定常状態の値となる。)

テイコプラニンの溶解法や投与速度

通常200~400㎎を生食100mlに溶かして、1時間かけていくことが多いです。

添付文書には、「本剤1バイアル〔200mg(力価)〕に注射用水又は生理食塩液約5mLを加えてなるべく泡立たないように穏やかに溶解し溶液とする。この溶解液を100mL以上の生理食塩液等に加えて希釈する。」「注射液は30分以上かけて点滴静注すること。」と書かれています。

メーカーの人に聞くと、200㎎を生食100mlに溶解し、30分でも、400㎎を生食100mlに溶解し、30分で投与でも良いそうです。ただ、個人的に、バンコマイシンと同じくレッドマン症候群の副作用を経験したことがあるので、1時間はかけたいなぁ、という思いはあります。

テイコプラニンの目標血中濃度

化学療法学会TDMガイドライン2016では以下のように書かれています。

  • 目標トラフ値は 15~30 μg/mL を推奨する
  • ただし,重症例や複雑性感染症(心内膜炎,骨関節感染症など)では,より良好な効果を得るために目標トラフ値を 20 μg/mL 以上に設定する
  • トラフ値 20~30 μg/mL での臨床効果,安全性が確認されている
  • トラフ値が 30 μg/mL 以上で高い有効率が得られるとの報告はない
  • トラフ値上昇に伴う肝機能障害,トラフ値 40~60 μg/mL 以上での血小板減少,腎障害の発現頻度増加が報告されている

つまり、トラフ20μg/ml前後がとりあえずのねらい目です。また、トラフ30超えてしまったとしても、40くらいまでは

培養が出そろって必要なさそうであればオフ考慮を

というわけで、自分としてはいるかなぁ?と思いながらもテイコプラニンが開始。こういうエンペリックでの抗MRSA薬追加は臨床の場面ではやりがちな医師が多いですし、別に間違いではないと思います。大事なことは、培養結果が出そろった投与5日目ごろに、まだ抗MRSA薬が必要かもう一度考えてみることです。

培養でMRSAやE.faeciumが生えなくて、かつ効いていそうになければorそれと関係なく治っていそうであれば、終了を検討しても良いでしょう。

その後の経過

術後の方で、CRPや熱が上がったり、下がったりして、テイコプラニンが効いてる感じではなくなってきたので(抗菌薬は原則効くか効かないかのどちらか)、1週間投与した所で、いったん終了で経過観察となりました。

治療はまだ少し難渋しそうな印象ですが、抗菌薬については一時停戦となりました。

taku

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


コメントする