腸球菌の尿路感染は何日の投与が良いでしょうか?
本日の相談
糖尿病のある患者さんで、自己免疫疾患を今後治療予定。水腎症があり、ステント留置後発熱あり、セフメタゾール開始、その後血液培養と尿から、Enterococcus faecalisが検出された。抗菌薬はセフメタゾールに耐性なので、変更しようと思うが、投与期間は今から14日程度が良いのか?、という相談。患者さんの現在の状態としては、発熱などなく、Enterococcus faecalisはセフメタゾールに耐性ではあったが、感染症としては落ち着いているとのこと。
腸球菌の尿路感染は頻度としては低い
尿路感染の原因菌はほとんど大腸菌など腸内細菌である。腸球菌も起炎菌の候補となりえるが、ネット上で調べても複雑性尿路感染の場合で20%未満と起炎菌となる頻度は低い。亀田感染症ガイドライン・女性の尿路感染では、「尿から腸球菌や連鎖球菌が検出されることがあるが、病原性は弱く、解剖学的な異常がない限り、通常は原因菌とならない。」と書かれている。
最近の尿路感染の抗菌薬投与期間は1週間でいい?
以前は腎盂腎炎の場合抗菌薬投与期間は、2週間と言っている人が多かったが、最近は条件がそろえば1週間でも良いという文献もある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30535100/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32484534/
しかし、この二つとも、非複雑性の、という文言が入っている。
尿路感染を考える時は、複雑性尿路感染か、非複雑性尿路感染かで投与期間が変わってくる。
複雑性尿路感染とは?
尿路や全身に基礎疾患がある状況。
- 前立腺肥大
- 前立腺がん
- 膀胱癌
- 神経因性膀胱
- 尿道狭窄
- 膀胱結石
- 糖尿病がある
- ステロイド投与中
- 抗癌剤投与中
などでしょうか。
複雑性尿路感染症では、これらの基礎疾患の把握と、適切な尿路管理が治療のためのポイントになってくるので、抗菌薬はむしろ補助的になります。菌が耐性菌でないのに、効かない→抗菌薬を広げるは好ましくありません。
本症例はこれらのエビデンスがあてはまらない
腸球菌の尿路感染、という時点で、上記のエビデンスにはあてはまらない。また、糖尿病があり複雑性尿路感染に当たりそうだ。
今回は、14日間抗菌薬投与が妥当な所と考え推奨した。
気になる所としては、外している抗菌薬で現在改善しているのに、本当に14日間も必要かという所。腸球菌の感染では時々こういうことがあるが、だからと言って、今回は血液培養が陽性になっているので、定着などど判断して無視することはできないし、今後自己免疫疾患の治療をステロイドで予定していることも考えると、14日もいらないかもしれないけど、しっかり抗菌薬は投与しておいた方が無難な所かと思う。
まとめ
- グラム陰性桿菌の非複雑性尿路感染であれば、7日の投与期間はあり。
- 腸球菌に限定した尿路感染の投与期間に関するデータは見つけられず。
- 本症例は血液培養陽性の複雑性の尿路感染であったので、2週間投与がベターでは?となった。