それってAmpC産生菌?
本日の介入
週1のAntibiotic Time outでの出来事。セフトリアキソンを10日目に突入中の方を発見、使用理由は腸炎の疑い。ふむふむ、大腸カメラでとった組織の培養は・・・Enterobcator cloacae。むー、起炎菌ならばちょっと注意せなあかんやつだ。
患者背景
施設入院中の80歳女性、糖尿病あり。炎症のフォーカスがいまいちはっきりしないが、大腸カメラの結果、大腸炎ということで色々調べて抗菌薬点滴中であった。WBCやCRPは経時的に低下していたが、CRP8くらいで横ばいな感じで、熱はまだ37度後半ほど出ていた。
腸内細菌の一部ははAmpC産生株に注意
一部の細菌にはAmpCというβラクタマーゼを産生するという耐性機構があります。感受性がSとかえってきても、使っているうちに耐性になって、効かなくなるという、なんだそれ?って感じです。
AmpCには、誘導と脱抑制という2種類の機構があります。
まず誘導というのは、EnterobactorやCitorobactor、MorganellaはもともとAmpCというβラクタマーゼを持っていて、普段はそのβラクタマーゼはAmpRという酵素によって抑制されているので耐性ではないのですが、抗菌薬投与により細胞壁が破壊されはじめると、AmpRがAmpCを抑制ではなく発現する方向に作用し(誘導)、結果、AmpCが大量産生され抗菌薬耐性化する・・・という機構です。
一方脱抑制というのは、AmpDという壊れた細胞壁を処理する酵素が遺伝子変異でもともと壊れているために、抗菌薬が作用していなくても、AmpRがAmpCを抑制していない状態(脱抑制)にあることをいいます。遺伝子変異を起こしている細菌は少ないのですが、抗菌薬投与により正常な細菌がいなくなり、変異を起こしている細菌が優勢になると、抗菌薬が効かなくなる、という理屈です。
では、何を使うか
誘導能が強くβラクタマーゼによって分解される抗菌薬はだめです。セフメタゾールやセファゾリンがそれに当たります。
一方イミペネムは誘導は強いのですが、βラクタマーゼに分解されないので、いくら誘導されても関係なく効きます。
誘導が弱くβラクタマーゼによる分解を受けない抗菌薬が一番効果的です。これがセフェピムやメロペネムになります。これがベストチョイスです。
一方誘導は弱いのですが、βラクタマーゼにより分解されちゃう(脱抑制の影響を受ける)のが、セフトリアキソン、ピペラシリン、スルバクタム、タゾバクタムになります。
なので、セフェピムやメロペネムが絶対安定ですが、脱抑制の頻度が少ない株(morganella)とかであればセフトリアキソンやタゾバクタム/ピペラシリンも効く可能性があるということになります。
ほかの選択肢として、βラクタム系でない、キノロン系とかST合剤とか感受性があればそちらを使用するという方法もあるでしょう。
実際の現場では、エンペリックに開始したセフトリアキソンで押し切れる時もあるし、セフェピムに変更を推奨することもある、といった感じです。
どうなったか
今回は改善がイマイチであったので、主治医にAmpC産生菌の可能性について説明し、セフェピムでいくことになりました。そうすると、横ばいであったWBCやCRPが低下し、感染は沈静化されました。
ただ、微熱が続くので、さらに調べていくとこの方は消化器癌が発見され、そちらの治療に移行しました。消化管からのBacterial translocationの原因が癌であった、というのはしばしありうることです。