肝膿瘍でカルバペネム無効かも?

本日の相談

肝膿瘍で、メロペネム投与中だが、発熱続き経過芳しくないとのことで相談。主治医はクリンダマイシンの併用どうかとの相談・・。

患者の整理

80歳台の女性、胆管チューブ閉塞+胆管炎、肝膿瘍で、ENBDチューブ留置後、抗生剤治療している方。Cc50ml/minくらいで、メロペネム1回1g(3時間)1日3回投与して、8日目になっている。血液培養からは、Edwardsiella tardaと、Streptococcus constellatusが検出されており、両菌とも抗菌薬感受性はメロペネムでなくてもほとんどSとなっている。WBCもCRPも低下傾向であったが、本日発熱あり、再度白血球もCRPも上昇、取り直したCTでは肝膿瘍の増大を認めたが、穿刺は行えず、抗菌薬でなんとかならないかという話であった。

肝膿瘍の治療

まず、肝膿瘍の治療について整理しておこう。一番大事なことはドレナージである。ばい菌が集まって大きくなって膿瘍になると、抗菌薬だけでの治療が難しくなる、外科的にその部位にアプローチして、膿をとってしまうのがベストだ。その後残った菌に対して、抗菌薬を投与する。

想定する頻度の高い細菌
嫌気性菌、グラム陰性桿菌、腸球菌

抗菌薬例
セフトリアキソン2g+メトロニダゾール500㎎8時間ごと
or
タゾバクタム/ピペラシリン 4.5g 1日3~4回
or
スルバクタム/アンピシリン 1回3g 1日3~4回
or
メロペネム 1回2g 1日3回

期間
ドレナージが適切に行われた場合:14~42日
ドレナージが不十分な場合:数か月になることもある

その他
黄色ブドウ球菌や連鎖球菌も起炎菌になりうる。
免疫力が低い患者の場合は最初から抗真菌薬のカバーも考慮。

今回の菌について

個人的に肝膿瘍の起炎菌と言えば、まずはE.coliやKlebsiella pneumoniaeだが、今回はEdwardsiella tardaと、Streptococcus constellatus ちなみに主な抗菌薬の感受性はほとんどSになっている。

Edwardsiella tarda・・・人の常在菌ではないらしい。魚(淡水魚)の病原菌になる。肝膿瘍の原因菌としては稀な部類のようだ。もしかすると、患者は感染したウナギやナマズを食べたことがあるのかもしれない。

Streptococcus constellatus・・・口腔内や粘膜にいる常在菌だが、膿瘍を形成する感染の起炎菌になることが多いらしい。

各抗菌薬の弱点

メロペネム・・・腸球菌に不安あり

スルバクタム/アンピシリン・・・緑膿菌など院内環境にいる弱った人を襲うグラム陰性桿菌のカバーに不安あり

セフトリアキソン+メトロニダゾール・・・腸球菌と緑膿菌などグラム陰性桿菌に不安あり

タゾバクタム/ピペラシリン・・・緑膿菌もOK、腸球菌、その他グラム陰性桿菌、嫌気性菌OKなので、あまり不安なし?。ただE.faeciumであればカバーできません。

なので、血液培養や、穿刺したときの培養からの菌の情報は是非ほしい!、という所です。

今回の対応

菌は耐性菌ではない。抗菌薬は効くはずであるが、菌の勢いに負けている。また、壊死性筋膜炎以外でメロペネムにクリンダマイシンを足す理由はない。嫌気性菌のカバーはメロペネムで十分にできるからだ。おそらくドレナージがベストだが、しないという方針になっている。だからといって、このままでは悪くなる一方だ。血液培養を取り直しつつ、メロペネム増量またはシナジーの証明はないが、シプロフロキサシンの追加はどうかと提案した。キノロン系は脂溶性で各種組織への移行性が良い。また、肝膿瘍の内服治療ではよく使われている薬なので効果が期待できるかもしれない、と考えたからだ。主治医の先生はあとがないので、2剤併用でいきましょう、ということになった。

メロペネム1回1g1日3回(3時間)→1回2g1日3回(3時間)
 +シプロフロキサシン1回300mg 1日2回

その後

抗生剤増量前に取り直した血液培養でも、Edwardsiella tardaと、Streptococcus constellatusが検出されたので、同じ菌による感染の持続が決定的となりました。

抗菌薬増量後&追加後、白血球、CRP徐々に改善し、患者さんの倦怠感なども改善。

正直感受性はほとんどSなので、どの抗菌薬でも最大量投与したら大丈夫だったのかもしれない。

今後、膿瘍の縮小具合によっては、内服のシプロフロキサシン+メトロニダゾールなどに変更を提案していきたい所。
ただ、ドレナージがうまくいっている症例ではないので、治療は長期戦になるかもしれない・・・。

taku

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