これってinoculum effect?
本日の疑問
頭頚部の膿瘍、血液培養は黄色ブドウ球菌(非MRSA)。初期抗菌薬がスルバクタム/アンピシリンで、白血球やCRPがうまく低下していたので、そのまま続行されていた。その後白血球やCRPは下がっていたのですが、CTで確認してみた所、膿瘍は縮小せず拡大。セファゾリン+ミノサイクリンに変更してみると、膿瘍縮小という症例があった。
調べてみると、inoculum effectというキーワードにいきついた。
inoculum effectとは
簡単にいうと、感受性試験で試験管の中ではSと判定されていても、その菌が膿瘍などのようにたくさん存在する場合、最小発育阻止濃度が上昇し、抗菌薬が効かなくなるという現象です。
なぜ?
黄色ぶどう球菌はβラクタマーゼを出すことで、ペニシリンを分解して無効化します。そこで人間側は抗菌薬が分解されないようにβラクタマーゼを阻害する薬をまぜて、分解を邪魔しました。なので、アンピシリンはほとんど黄色ブドウ球菌に耐性ですが、スルバクタム/アンピシリンは(一応)感受性はあります。スルバクタムがβラクタマーゼ阻害薬です。
しかし、これまた菌も一枚上手で、inoculum effectを示すと、βラクタマーゼを過剰産生して、抗菌薬に対して耐性になってしまうことがあるそうです。
一人ではやられるけど、数集まれば強くなるって感じですかね?!。
セファゾリンのβラクタマーゼは4種類タイプ(A、B、C、D)があり、タイプAとCでinoculum effectが起こりえるようです(下記リンク参照)。
どの抗菌薬でinoculum effectが起こりそうか?
https://clsi.org/about/blog/ast-news-update-2019-hot-topic/・・・セファゾリンはありえそう。A型とC型で臨床的失敗があるとのこと。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30269181/・・・スルバクタム/アンピシリン、タゾバクタム/ピペラシリンもあるかも。C型のβラクタマーゼで頻度が高そう。
メロペネム、セフトリアキソン、セフェピムあたりは大丈夫そう。
まぁ、抗菌薬適正使用を促す立場としては、黄色ブドウ球菌にセファゾリン以上広域の抗菌薬はあまり使いたくない気持ちもあるが・・・。
今回はなんらかのタイプのβラクタマーゼで、スルバクタム/アンピシリンの効きが悪くて、セファゾリンかミノマイシンのどちらかが効いたのかもしれません。ミノマイシンはあまり黄色ブドウ球菌にすすめられる抗菌薬ではなさそうですが・・・。
inoculum effectを踏まえて
黄色ブドウ球菌、非MRSA、セファゾリンやー!!って言ったけど、今いち効果が乏しい。特に膿瘍など菌の塊のあるような疾患の場合は、セフトリアキソンの方が有用かもしれません。当院では遺伝子検査なんてできないので、経過見ながら次の抗菌薬を選択、ってとこかなと思う。